和風企画提案
「再生への挑戦」 (完成した庭はこちらからご覧になれます。)
設計者よりコメント
[北側]滝や州浜がある池泉回遊式の庭
古くから先祖代々伝わる庭の再生、これが一番のテーマでした。
北側には、当時の石組がそのまま残っており、昔は池らしい形跡が残っておりました。
昔から雪国の庭は今の時代と違い、日照りの長い南側に作庭するのではなく、日当たりが悪く、春になってもいつまでも軒先に残っている雪消しの為、北側に池を作ったと聞いた事があります。
まさに、これだと思いました。
この雰囲気を壊す事がない様、既存の石組と樹木は限りなくそのまま残して、池を作ることにしました。
その為、護岸の石組はアクセントにしか用いず、代わりに伊勢ゴロタの州浜を設けました。
水の屈折により水中に入ると、州浜の見える角度がゆるくなり、小さな池でも広く見えるからです。
池全体を眺める場所がほしいと、庭の北側に幾重にも重なり埋もれていた切り石を1個1個、高さ、幅、長さを計測し、その形状を隅々まで合わせた結果、上手く長方形の石畳が出来上がりました。
正直これは、自信がありませんでしたが、神がかリ的にピッタリ既製品のように仕上がりました。
この庭のビューポイントは、自宅の御主人の書斎を意識し、作業に入ってからも、工程の節目節目に書斎の中に入れてもらい、窓から見える景色と、庭から見る景色に微妙なズレが生じないよう、確認しながら作業を進めていきました。
それと省エネの為に、もともと屋根に降った雨水が2ヶ所の排水口に集水する仕組みだったので、それをさらに1ヶ所に集水させ、手前に見える流れの水源にし、水の補給の一部に役立たせました。
それは、いにしえからここに存在したかの様な自然な流れに仕上がりました。
その結果、庭の廻りを回遊して、色々な角度から眺めても、違った景色があらわれる、万華鏡の様な素敵な池泉回遊式の庭園が出来上がりました。
[東側] 降り蹲踞のある庭
存在感のある梅の古木とモミの大木と、それにからまるノウゼンカツラが、古くから当家の目印になっているかも?
第一印象はそんな感じを受けました。
そんな中、庭の中を物色していると年代物の石臼を発見。
これは茶庭形式でいくしかないと心に決めました。
石臼を手水鉢に見立て、その天端を地面とスレスレの高さまで下げて設置し、海を深く広くとる降り蹲踞の技法を用い、高低差によって見応えのある景を生み出しました。
もちろん湯桶石(お湯の入った桶を置く石)、手燭石(灯りを置く石)、前石(ここに乗って手と口をすすぐ石)等の役石はもちろん、鉢廻りの石も飛石に至るまで、全てこの場所に埋もれていた石を1個1個紐解いて、いろいろな角度から眺め想像し、組み上げることで完成させました。
ブロック塀の化粧にトウネズミモチの生垣を用い背景とし、竜のごとく後方から反り返る黒松をこの景の最大の見せ場にとの思いで植栽しました。
また、雪国の為にスギゴケは凍害で少しづつかすれていきますので、その代わりにリュウノヒゲを用い、所々にアクセントとして山野草(フイリツワブキ、ダイモンジソウ、タテツボスミレ、フイリヤブランetc)を植えています。
軒内の瓦は縦使いにして埋め込み、仕切り材として使用し、その中に那智黒石を敷いて化粧しています。
この下を雨水が流れ、先程の集水口へ流れていき、池へと注がれます。
庭の約半分を占める茶色の寒河江川の玉砂利敷の下には、防草シートが貼りつめてあり、庭の管理で一番面倒な手抜き除草等の軽減にも一役かっています。
降り蹲踞はもとより、全体的に京風庭園の趣きを感じさせてくれます。
[南側] 七・五・三石組のある庭
施主のお父様が若い頃、ある作業をしたかわりに山から苦労して運んでこられた葉山石の数々。
何十年もこの場に放置され苔むして、それでも存在感を示す巨石達。
数から言っても石組みするには足りないし、どう活かそうか・・・
私の脳裏に浮かんだのは、七.五.三.石組みという伝統的な手法でした。
七.五.三.とそれぞれ三つの独立した島に見立てて、ひょうたん型や雲形にそれぞれ型取りました。
多くの巨石達は、大型クレーンにより吊り上げ、その存在感を誇示するかのように、また昔からそこにあったかの様に、大勢の職人の力によっておさまりました。
その個数も計ったかのように、丁度15個でした。
これらの石組は連立して見ることで、より一層の迫力を感じさせてくれます。
境界には、シラカシの苗木(H=2.0m)を生垣として用い、背景は整いました。
シラカシは古くから防火樹として用いられ、その役目を果たしてきました。
この植栽にはそういう意図もあります。
石組にはコグマザサが地被として植えられ、神山のごとくおごそかの中にも高貴さを漂わせてくれています。
このままだと、どうしても盛土した土が通路に流れ出てしまうので縁石はどうしようか考えていた所、土の中から出てくるは出てくるは、川石の玉石の数々・・・
これを1ヶ所に集積して、角がたっているものだけを選択し、縁石として1個1個丁寧に並べる事で、この石達には新たな役割と価値を見い出す事が出来ました。
この庭の一角には御先祖が建立された石碑があります。
同じ場所に今度作庭させて頂く事ができ、新たな歴史を刻む事ができ大変光栄に思います。
最後に、初めは植木を少し剪定して、化粧に玉砂利を敷くだけだったはずが、これ程までの作庭の仕事に広がるとは夢にも思いませんでした。
当節、中々和の庭を作られるお客様が少なく、当社に代々受け継がれて来た職人としての技を伝承させる機会が少ないなか、この様なチャンスを頂き、I邸の方々には大変感謝しております。
これからも、お庭番として末永いお付き合いをさせて頂くことを希望しております。
二ヵ月半もの長期に渡り、色々な気配りをして頂きまして、社員一同大変感謝しております。
誠にありがとうございました。
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。